先端生命科学研究会・修士中間発表

2021年7月16日〜22日

注意点

参加者は、下記の発表者にあるリンク先から動画サイトに移動していただき、そこで発表を視聴し、少なくとも誰か一人の発表に対して質問/コメントをして下さい。それによって出席したとカウントされます。既に質問されているものや、発表内容から逸脱したもの、質問・コメントとして相応しくないと考えられるものはNGとします。

質問/コメントは動画サイト内のコメント欄にご記入下さい。最初に「○年の○○です」と名乗って下さい。コメントをするためにはhttps://vimeo.com/joinにてIDを登録する必要があります(無料)。発表者はコメント欄に回答する形で返事を記入することになります。最初に「○○さんへ」とどの質問への回答か明確にして下さい。回答期限は23日の朝6時とします。

発表(9件)


腸内細菌叢と性ホルモンとの相互作用の解明
Elucidation of the mechanisms of gut microbiota-sex hormone interaction
#1 高橋 春乃


近年,女性の膣や子宮の細菌叢が不妊に影響を及ぼすことが様々な研究において報告されている.しかし,腸内細菌叢が不妊に与える影響については明らかになっていない.先行研究では,健常な女性と不妊患者では腸内細菌叢に違いがあることが報告されている.また腸管への細菌定着によって無菌マウスの発情周期の正常化および着床率の増加がもたらされることも示唆されている.そこで本研究では,腸内細菌叢と繁殖効率の評価試験から,腸内細菌叢が生殖機能に与える影響とそのメカニズムの解明を目指す.動物試験の結果,3種混合抗生物質カクテルを投与したマウスでは総腸内細菌量が減少し,出産頻度が著しく低下した.一方で,抗生物質 X単独投与群では通常のマウス群と比較して初産までの間隔がわずかに短くなり,腸内においてBacteria Aの細菌数の有意な増加が認められた.これらの結果から,Bacteria Aが繁殖効率の向上に関与する可能性が示唆された.
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数理モデルを用いた肝臓内の脂質代謝にみられる空間的不均質性の合理性の解明
The rationality of spatial heterogeneity in hepatic lipid metabolism: a mathematical model and computer simulation study
#2 戸塚 健介


肝臓はヒトなど多くの脊椎動物の最大実質臓器であり、生命活動の維持に不可欠な様々な代謝機能や、恒常性の維持に寄与する。肝臓の組織学的構成単位である肝小葉内には、血流の上流から下流にかけての血中物質濃度勾配による不均質性と、位置特異的な遺伝子制御による代謝動態の不均質性の、二重の不均質性が存在する。肝小葉内の代謝機能の不均質性が自然選択を経て現存している理由について、定量的な検討はほとんど進んでいない。本研究では肝臓の脂質代謝に関する不均質性に着目し、肝脂質代謝を模した数理モデルと遺伝的アルゴリズムを用いて進化シミュレーションを行い、現存している肝脂質代謝の空間的不均質性がいかなる選択圧によって獲得されたのか推定を試みる。これまでに肝脂質代謝を表現する数理モデルを構築し、シミュレーション結果を先行研究のデータを比較することで、モデルの検証を行った。検証の結果、シミュレーション結果と先行研究のデータは一致せず、モデル内のグルコースに関連する代謝経路の実装に不備があると推測された。
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高放射線環境および福島第一原発に由来する微生物群集解析
Microbial community analysis of high-radiation environments, Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant and the surrounding areas
#3 藁科 友朗


電離放射線は,生物の遺伝情報を保存する役割を担うDNAに損傷を引き起こし,遺伝子の変異や生存に影響を与えるが,一部の微生物は優れたDNA損傷の修復機構を有しており,高い放射線量環境でも生息することができる.2011年に炉心融解を伴う事故が発生した福島第一原子力発電所の内部調査では,金属表面上にバイオフィルム(微生物の集合)様の物体が確認されたが,これまで内部の微生物調査は行われていない.微生物の中には,金属表面上にバイオフィルムを形成して金属を腐食させる種類が報告されており,原子炉建屋内部の微生物の繁殖状況を把握することは,原子炉建屋や炉内の微生物腐食を抑制する手法を提供することができる.そこで,本研究では,福島第一原子力発電所の原子炉建屋内に滞留している汚染水および,1F周辺の環境サンプル(土壌・海水)を取得し,16S rRNA配列に基づく微生物群集構造解析を行なった.その結果,福島第一原発周辺の土壌(71 µSv/h)は,70 km以上離れた地点(1 -1.5 µSv/h)の土壌の微生物群集構造が類似しており,金属腐食に関連するバクテリアや放射線耐性菌は優先種でなかった.1F原子炉建屋内に滞留している汚染水からは福島県内の海水と同程度のDNA濃度であり,微生物群集解析では,汚染水中には,チオ硫酸塩酸化細菌であるLimnobacter thiooxidans を中心とする細菌群集の存在が明らかになった.また,汚染水内で主要な細菌は,他の水系サンプルでは1%以下の割合であったことから,汚染水環境で適応する特定のバクテリアが増殖している可能性が示唆された.さらに,環境トピック解析(微生物群集構造から環境を推定)を実施したところ,海洋環境とバイオフィルム環境に頻繁に存在するバクテリアで構成されていることが明らかとなった.このことから,汚染水内では,初期に注入された海水に含まれるバクテリアの一部が増殖し,バイオフィルムが形成されていることが示唆された.Limnobacterは金属腐食への関連が報告されており,福島第一原子炉建屋内の金属腐食を促進している可能性がある.
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行動試験及び分子生物学的アプローチによる一時的社会寄生種トゲアリ(Polyrhachis lamellidens)における宿主識別機構の解明
Elucidation of mechanisms of host recognition by the bioassay and molecular biology approach in a temporary social parasitic ant: Polyrhachis lamellidens
#4 栗原 悠


一時的社会寄生種であるトゲアリ(Polyrhachis lamellidens)の新女王は寄生初期段階に宿主ワーカーに対し,種特異的な「馬乗り行動」を行う.馬乗り行動は宿主への化学偽装戦略であると考えられており,トゲアリの寄生には必須である.しかしトゲアリが宿主を識別する上で必要な化合物や分子基盤は不明である.そこで,本研究ではトゲアリにおける宿主識別機構の解明を目指した.行動試験の結果,宿主体表化合物群(揮発性成分も含む可能性あり)とキチンが馬乗り行動のトリガーであった.さらに馬乗り行動の積極性には個体差があり,積極性は宿主との接触とその後の時間経過により上昇することが判明した.トランスクリプトーム解析より,馬乗り行動に積極的なトゲアリ新女王の脳内で揮発性フェロモン応答関連遺伝子群や神経伝達関連遺伝子群の上昇が見られた.以上から,トゲアリは脳での上記遺伝子群の高発現下で,宿主体表の揮発性化合物を認識することで,宿主を識別すると予想された.
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SLFN11がリボヌクレオチド還元酵素阻害剤の感受性を増強する機序解明
Understanding of mechanisms of action by which SLFN11 enhances the drug sensitivity to RNR inhibitors
#5 高橋 佑歌


DNA複製の材料となるdNTPの合成に必須のタンパク質ribonucleotide reductase (RNR)の阻害剤は,複製を急速に止めて抗がん剤として作用する.複数のRNR阻害剤の臨床治験が進行中であり,効果予測バイオマーカーの発見が望まれる.SLFN11は,複製ストレスに応答して複製を永続的に停止させて細胞死を誘導するので,複製ストレスを惹起するRNR阻害剤の効果予測バイオマーカーとなり得る.本研究の目的は,SLFN11がRNR阻害剤感受性に及ぼす影響および感受性増強の作用機序の解明である.結果,RNR阻害剤はSLFN11の有無によらず複製を急速に停止させたが,細胞はSLFN 11依存的にアポトーシスを起こした.SLFN 11陽性細胞ではdNTPを過剰量供給しても複製は再開されず,RNR阻害剤投与下では,SLFN 11がdNTPの枯渇とは別経路で複製停止を起こしていた.
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過酷な熱ストレスからの回復過程における大腸菌遺伝子発現の系統的な解析
Systematic Analysis of Gene Expressions during Recovery from Severe Heat Shock in Escherichia coli
#6 黄 沐陽


ストレス応答は生命にとって必要不可欠な機構である.モデル生物である大腸菌においては,様々なストレス源に対する応答機構の解明が試みられており,特に熱応答については多くの知見が得られている.しかしながら,熱応答以降,高温によって受けたダメージからどのような機構を経て回復するのかについては,大腸菌でもほとんど解明されていないのが現状である.そこで本研究では,細胞中の多種多様なタンパク質 (プロテオーム) およびRNA (トランスクリプトーム)の量を大規模に測定することで,大腸菌における熱ストレスからの回復期間に働く因子の網羅的な推定と分子メカニズムの解明を目指している.学部の卒業論文では,1,425種のタンパク質の発現変動データから,熱ストレス応答から回復過程で幾つかの異なる機能ごとにタンパク質群の量が段階的に時間を追って変化することを見出し,報告した.また,tRNAやrRNAの修飾酵素が厳しい熱ショック状態からの回復に必須だが,通常の生育には必要ないことを実験的に示した.今回はさらに高感度な測定装置を用いて,より多くの時点において再度,測定と解析を行なった結果について報告する.大腸菌を30 ℃で前培養した後,50 ℃,90分という本対象株にとって,約30%以上が死滅するような極めて厳しい熱ショックを与えた.この熱ショック群および30 ℃で培養を継続した対照群について,それぞれ11と7のタイムポイントを設け,timsTOF Pro質量分析計とIllumina NovaSeq 6000を用いて,3,133種のプロテオーム発現データと4,157種のトランスクリプトームの定量データを継時的に得た.高感度な測定機器の使用により,サンプル中に微量しか含まれていないタンパク質の解析が可能となった.特に,転写に関連する因子は以前,69種類しか計測できていなかったが,今回,270種類について発現量データを取得した.その結果,ストレス応答で中心的に働くσ因子等の転写因子自体の発現と,その制御対象の標的遺伝子群の発現とが必ずしも一致しないことを見出した.例えば,同じσ因子によって制御される遺伝子群の中でも発現変動のタイミングは異なっていたため,別種の転写因子の組み合わせによって多階層の制御が行われていることが伺える.また,翻訳を担う54種類のリボソームタンパク質群の全ては,熱ショック以降にmRNA量が急減するものの,タンパク質量が回復に至るまでの長期間,共通して維持されていた.この結果は,熱ストレス下でリボソームの新規合成やタンパク質全般の翻訳を抑制しつつ,ストレスからの回復期に向けて翻訳機構を維持しておくという熱ストレスに対応する未知の仕組みの存在を示唆している.本発表では,以上の解析より得た結果をもとに,熱ショック以降にmRNAとタンパク質の量を制御し,回復へ至る分子機構の全体像について議論したい.
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骨恒常性維持の分子機序解明に向けた不動性骨粗鬆症の病態理解
Understanding for a pathology of disuse osteoporosis towards elucidating mechanisms of bone homeostasis
#7 郷地 慶


微小重力環境では非荷重により骨が減少し、逆に荷重環境では骨が増加する。その背景に力学的荷重感受を介した骨恒常性維持機構が存在するがこの全貌は解っていない。この解明に向け、まず荷重の強弱に伴い骨量が増減する非荷重/荷重マウス実験系を確立させた。 非荷重モデルにはワイヤー固定を用いた。14日間で骨形成と骨量が著しく低下した。経時的解析から4日間で骨量が減少するが、2日で既に骨形成が低下しており、非荷重直後の骨形成抑制とそれに続く骨量減少が起きることが判明した。 一方、荷重モデルでは走行・肥満化実験を行った。前者では運動強度に応じた骨量、骨形成の増加傾向が見られた。後者では体重・骨量増加の表現型が見られたが、高脂肪食+走行群では体重変化がないにも関わらず骨量が増加した。骨への力学的荷重増加に伴う骨量増加効果が示された。 今後はこれらのモデルで骨組織変容の調節遺伝子を同定し、運動効果が期待できるエクササイズピルの開発に向けて調節遺伝子の人為的制御法を模索したい。
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主体的なワークショップの運営によるがんサバイバーのストレスマネジメントに関する研究
Research on stress management of cancer survivors through proactive workshop management
#8 舘野 弘樹


日本はストレス社会と言われ、気分障害の患者数も年々増加し、ストレスへの対処は大きな課題である。日常的なストレスにはセルフケアが重要だと言われ、その方略として心理療法である認知行動療法の有効性が指摘されている。しかし、医療資源に乏しい地方都市において、地域住民が認知行動療法を正しく習得してセルフケアに活用可能かは検証の余地がある。そこで本研究では、地域社会におけるセルフケアのための認知行動療法のあり方を2種類のコミュニティへの参与観察を通して実践的に調査した。臨床心理士である筆者ががんサバイバーコミュニティ(調査1)と産業カウンセラーコミュニティ(調査2)と協働して認知行動療法を学ぶワークショップを企画し、参加者の心理的変化やコミュニティ内の相互作用を探った。その結果、現在までに調査1では、特定の参加者の思考プロセスがレジリエンス要因として機能し、その思考が周囲の参加者へ正の影響を及ぼすことが観察された。今後の学期では引き続き2集団への参与観察を進め、考察を深めていく。
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原核生物ゲノムにおけるグループIIイントロンの情報科学的解析
Bioinformatics analysis and characterization of group II introns in prokaryotic genomes
#9 三浦 昌浩


DNA (デオキシリボ核酸) は遺伝情報を担う物質である.細胞の構造や機能を制御するための情報が各生物種のDNAに含まれるため,細胞内のDNAの全集合であるゲノムDNAは生命の設計図とも呼ばれる.一方で,実際の細胞内のゲノムDNA配列は世代を超えて常に完全に保たれる訳ではなく,挿入,欠損,置換等により頻繁に変化する.私の研究対象であるグループIIイントロンは,ゲノムDNA上で自身のコピーをつくり,挿入することで増殖する可動因子の一種である.この分子は原核生物 (バクテリア,アーキア) のDNA 配列中に多く見出されており,真核生物 (動物や植物等の核を伴う生物) の核ゲノムに共通するスプライシング機構の起源とされている.  本研究では,グループIIイントロンが原核生物の進化の歴史上でどのように伝播してきたか,その特徴を明らかにするために,ゲノムDNAデータ中からグループIIイントロンの配列を見つけ出すプログラムの開発を行ってきた.また,このプログラムを公共データベース中の約15,000種の原核生物のゲノムDNA配列データに適用し,生物学的な知見を見出してきた.例えば,特に信頼性の高い代表ゲノムを対象とした解析では,バクテリア1,790種およびアーキア296種のゲノムデータのそれぞれにおいて,バクテリアでは447種から2,383個,アーキアでは28種から84個のグループIIイントロンを見出した.バクテリアのグループIIイントロンは41門中29門と広範に分布し,その中でも25種のゲノムが20個以上の同イントロンを保持していた.一方,アーキアではグループIIイントロン全体の約80%がハロバクテリア門で見出され, 著しく偏った分布を示した.また,アーキアではその1ゲノムあたりの個数は多くても10個程度だった.そこで,グループIIイントロンの種特異的な増殖過程に迫るために,20個以上の同イントロンを持つバクテリアに対して詳細な解析を行った.グループIIイントロンが保持するIEP (Intron Encoded Protein; 逆転写酵素) コード領域に着目したところ, これらの種は大きく2つのグループに分類された.まず,25種の内,シアノバクテリア門に属する6種では,全てにおいてChloroplast-Like (CL) と呼ばれるIEPタイプのイントロンが顕著に増殖していた.一方,それ以外の大半にあたる15種においてはBacterial-C IEPタイプのイントロンが優占していた.先行研究によって,Bacterial-CタイプのグループIIイントロンの転移はDNAの複製機構と関連していることが知られている.そこで,宿主ゲノムの複製機構の違いを反映する値であるGC-skewに着目した.Bacterial-CタイプのグループIIイントロンを多数持つ種のゲノムはいずれも強いGC-skewバイアスを示し,単一の複製開始点を持つことが予想された.一方,CLタイプのグループIIイントロンが増加していたシアノバクテリア門に属する種のゲノムではGC-skewのバイアスが弱く,これらの種は複数の複製開始点を持つことが示唆された.以上は,原核生物におけるグループIIイントロンの増加が,宿主ゲノムの複製機構の違いを反映している可能性を示している.
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